
DAOとは¶
DAO(Decentralized Autonomous Organization, 自律分散型組織) は、スマートコントラクトとトークンによる投票で、資金の使い道やルールの変更を決める組織。明確な定義はないが、Vitalik ButerinはEthereumのホワイトペーパーで次のように説明している。
一定のメンバーまたは株主からなる仮想的な事業体であり、例えば67%の多数派が、事業体の資金を使ったりコードを変更したりする権利を持つ。
要するに「みんなで集めたお金の使い道を、みんなで決める」仕組みで、自律分散的に決める対象を
台帳の取引記録(Bitcoin)→ プログラムの実行結果(Ethereum)→ 資金の使い道やルールの変更(DAO)
へと拡張する試みと捉えられる。少なくとも「この手続きでこう決まった」という事実は検証可能な形で残る。
DAOの範囲の捉え方は人によって異なる。
狭義:スマートコントラクトで投票と資金の執行を行うDApps(The DAO, Nouns DAO)
広義:DAppsやプロトコルのガバナンス全般、さらにはオープンソースのコミュニティや町内会のような組織まで
DAOの基本的な流れ¶
| 段階 | 主な設計項目 |
|---|---|
| トークンの配布 | 誰に、どれだけ、どうやって配るか。チームや投資家への配分、ロックアップ |
| 提案 | 提案に必要なトークン量、デポジット、事前の議論の場(フォーラム) |
| 投票 | 投票期間、定足数、可決の条件、委任(delegation) |
| 実行 | 可決から実行までの猶予(タイムロック)、拒否権 |
提案の中身は、実行されるトランザクションそのもの(宛先、送金額、呼び出す関数と引数)として記述される。可決されれば、誰でもそのトランザクションを実行できる。
事例:The DAO(2016年)¶
The DAO は「DAO」という言葉を最初に使ったプロジェクトで、DAppsの開発プロジェクトへの投資をトークン保有者の投票で決める、自律分散型の投資ファンドだった。
設計¶
トークンの配布:28日間のクラウドセールで、ETHと交換にDAOトークンを配布。約1,200万ETH(当時の総供給量の約14%、約150億円)を集めた
提案:2 ETHのデポジットで提案できる(可決されれば返却)。提案の種類は、DAppsの開発資金の要求、パラメーターの変更、分派(split)
投票:1トークン1票、期間は14日間、定足数は総発行量の20%
分派(split):多数派の決定に不満な少数派が、自分の持ち分のETHを持って新しいDAOに移れる機能。「いつでも離脱できる」ことが理念として重視されていた
ハック事件とハードフォーク¶
2016年6月、split機能の リエントランシー脆弱性 を突かれ、約360万ETHが攻撃者の子DAOに抜き取られた。トークンをバーンする前にETHの送金が再帰的に繰り返し実行されたのが原因だった(→スマートコントラクト)。
splitされたETHは27日間動かせない仕様だったため、その間にEthereumのコミュニティが対応を協議し、ハードフォークで資金を返金用コントラクトに移す というステートの強制的な書き換えを行った。これに反対するコミュニティは元のチェーンを維持し、Ethereum Classic(ETC) として分岐した。
「Code is Law(コードこそが法)」の理念と、現実の被害救済とが衝突したこの事件は、
バグの修正をどう行うか(実はこのバグは事前に指摘されていた)
攻撃されたときにどう対応するか
「みんなで決める」ことの限界
など、DAOを考えるうえで多くの示唆を残した。
事例:Nouns DAO(2021年〜)¶
Nouns DAO (https://nouns.wtf/) は、NFTを使ったDAOで、「最もDAOらしいDAO」とも呼ばれた。
設計¶
トークンの配布:Nounというキャラクターのドット絵NFTを毎日1体発行し、24時間のオークションにかける。落札代金のETHはすべてDAOのトレジャリー(金庫)に入る。最初の5年間は、IDの末尾が0の10体に1体が創設者チームに配られる
デザイン:背景・体・アクセサリー・頭・メガネのパーツの組み合わせを、NFTのIDとブロックの情報から疑似乱数で決め、画像データ自体もオンチェーンに保存する
提案:一定数のNounを持っていれば提案できる。Nounの知名度を上げる活動への資金提供、トレジャリーの運用、DAO自体の改善など
投票:1 Noun 1票。賛成・反対・棄権。定足数は反対票の割合に応じて10〜15%で変動する(Dynamic Quorum)
拒否権(Veto):創設者が悪意ある提案をキャンセルできる。The DAOの反省を踏まえた安全装置だが、中央集権的な要素でもある
オフチェーンの活動(例えば「Nounsの映画を作った」こと)が本当に行われたかはチェーン上では検証できず、コミュニティへの信頼に頼っている。
分裂騒動¶
2023年に、The DAOのsplitに似た fork 機能が導入された。総発行量の20%以上のNounが参加すれば、トレジャリーを按分して新しいDAOに移り、新DAOではNounをバーンして持ち分のETHを引き出せる。
ところが当時はNFT市場が冷え込み、Nounの市場価格 < トレジャリーの総額 ÷ Noun数 という状態になっていた(株式会社でいえばPBRが1倍を割った状態)。そのため「市場でNounを買い集めてforkに参加し、ETHを引き出せば儲かる」という裁定機会が生まれ、DAOの半数以上がforkして離脱した。その後もforkが繰り返され、トレジャリーは3万ETH超から数千ETHにまで減った。
「いつでも離脱できる」という理念が、裁定取引によって組織そのものを解体させてしまった事例である。
プロトコルのガバナンス¶
多くのDeFiプロトコルは ガバナンストークン を発行し、仕様やパラメーターの変更をトークン保有者の投票で決めている。
| Uniswap(UNI) | MakerDAO / Sky(MKR / SKY) | |
|---|---|---|
| 発行 | 2020年。総量10億枚のうち60%をコミュニティに配分(過去の利用者へのエアドロップ15%など) | 2017年。100万枚 |
| 主な決定事項 | トレジャリーの使途、手数料率、新バージョンの展開先 | 安定化手数料率、担保の種類、清算のパラメーター |
| プロセス | フォーラムでの議論 → オフチェーンの予備投票(Snapshot)→ オンチェーン投票 | フォーラム → ガバナンス投票 → エグゼクティブ投票(承認投票) |
ガバナンスの道具¶
DAOの基本構造はおおむね共通なので、開発を効率化する部品が整備されている。
| 種類 | 例 |
|---|---|
| オンチェーン投票のコントラクト | Compound Governor, OpenZeppelin Governor |
| オフチェーン投票(gas不要、ある時点のトークン残高のスナップショットで投票) | Snapshot |
| トレジャリーの管理(マルチシグ) | Safe |
| ノーコードでのDAO作成 | Aragon |
| アップグレード | プロキシパターン(→スマートコントラクト) |
投票方式¶
| 方式 | 内容 | 課題 |
|---|---|---|
| トークン加重投票(1トークン1票) | 最も一般的 | 大口保有者(クジラ)が支配する。投票権の売買が可能 |
| 委任投票 | 自分の投票権を信頼できる代表者(デリゲート)に委ねる | 投票率の低さを補えるが、少数のデリゲートに権力が集中する |
| 二次投票(Quadratic Voting) | 票を投じるコストが 。少数の強い選好も反映できる | 複数のアドレスに分割する(シビル攻撃)と回避できるため、本人確認が必要 |
| コンビクション投票 | 投票を継続した期間に応じて票の重みが増す | 結果が出るまで時間がかかる |
| 楽観的ガバナンス | 提案は原則として通り、一定期間に反対が集まった場合だけ否決する | 監視を怠ると悪意ある提案が通る |
| フュターキー(Futarchy) | 提案を実行した場合としない場合の予測市場を立て、トークン価格が高くなると予測される方を選ぶ(Hanson) | 実例が少ない(→予測市場) |
ガバナンス攻撃¶
トークン加重投票では、投票権をお金で買えるため攻撃の対象になる。
2022年の Beanstalk 事件では、攻撃者がフラッシュローンで約10億ドル分の資産を借りてガバナンストークンを一時的に大量取得し、トレジャリーの資金を自分に送る提案を即座に可決・実行して、約1億8,000万ドル相当を流出させた。
対策として、
投票に使えるのは、提案作成時点(スナップショット)のトークン残高のみとする
可決から実行までに タイムロック(猶予期間)を設け、悪意ある提案が通っても資金を引き上げる時間を確保する
緊急時に提案を停止できるセキュリティ委員会を置く
などが取られている。
DAOの法的な位置づけ¶
DAOは法人格を持たないことが多く、メンバーが無限責任を負うリスクや、契約・納税の主体になれない問題がある。
米国のワイオミング州などでは、DAOをLLC(有限責任会社)として登録できる制度がある
日本では2024年4月の制度改正で、合同会社型DAO として、社員権をトークン化して発行・流通させやすくなった
参考文献¶
Buterin, V. (2014). DAOs, DACs, DAs and More: An Incomplete Terminology Guide.
Jentzsch, C. (2016). Decentralized Autonomous Organization to Automate Governance. (The DAOのホワイトペーパー)
Buterin, V. (2021). Moving beyond coin voting governance.
Weyl, E. G., Ohlhaver, P. & Buterin, V. (2022). Decentralized Society: Finding Web3’s Soul.