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マーケットシミュレーション

コンジョイント分析(選択型コンジョイント分析(CBC)と多項ロジットモデル、階層ベイズモデルによる個人レベル部分効用の推定)で推定した部分効用モデルを使うと、実際にはまだ市場に存在しない製品ラインナップ(自社の新製品案+競合製品)を仮想的に設定し、それぞれがどの程度のシェアを獲得しそうかを事前にシミュレーションできる。これをマーケットシミュレーション(market simulation)、あるいは**シェア・オブ・プリファレンス分析(share of preference analysis)**と呼ぶ。

シミュレーションの手順

  1. シミュレーションしたい競合シナリオ(市場に並ぶ製品案の集合、S={1,…,J}S = \{1, \dots, J\})を定義する

  2. 各回答者nnの部分効用β^n\hat{\boldsymbol{\beta}}_n(階層ベイズなどで個人レベル推定したもの)を使って、シナリオ内の各製品の効用V^nj=xj⊤β^n\hat{V}_{nj} = \mathbf{x}_j^\top \hat{\boldsymbol{\beta}}_nを計算する

  3. 何らかのシミュレーションルールに従って、回答者ごとの選択確率(またはシェア)を求める

  4. 全回答者について平均をとり、製品ごとの推定市場シェアとする

share^j=1N∑n=1NP^n(j∣S)\widehat{\text{share}}_j = \frac{1}{N} \sum_{n=1}^{N} \hat{P}_n(j \mid S)

シミュレーションルール

(1) ファーストチョイス・ルール(first choice rule):各回答者は効用が最大の製品を確率1で選ぶとみなす。

P^n(j∣S)=1[j=arg⁡max⁡k∈SV^nk]\hat{P}_n(j \mid S) = \mathbb{1}\left[j = \arg\max_{k \in S} \hat{V}_{nk}\right]

シンプルで直感的だが、僅差の効用でも「勝者総取り」になるため、シェアの変化が滑らかでない(急激に0か1になる)。

(2) シェア・オブ・プリファレンス・ルール(share of preference rule / logit rule):MNLの選択確率をそのまま各回答者の「シェア」とみなす。

P^n(j∣S)=exp⁡(V^nj)∑k∈Sexp⁡(V^nk)\hat{P}_n(j \mid S) = \frac{\exp(\hat{V}_{nj})}{\sum_{k \in S} \exp(\hat{V}_{nk})}

効用の差が僅かでも滑らかにシェアが変化するが、選択型コンジョイント分析(CBC)と多項ロジットモデルで触れたIIA仮定の影響を受けやすい(似た製品同士が過度にシェアを奪い合う)。

(3) ランダマイズド・ファーストチョイス(Randomized First Choice, RFC):Huber, Orme, Miller(1999)が提案した方法で、効用に追加のランダム誤差項(属性重みの分散+標準ガンベル誤差など)を加えたうえでファーストチョイス・ルールを適用し、これを多数回モンテカルロ・シミュレーションして平均をとる。ファーストチョイスの急峻さとロジットルールのIIA問題の中間的な性質を持ち、実務(Sawtooth Softwareなど)で広く使われている。

実装例

5人分の製品案(自社の新製品Xを含む)からなる競合シナリオについて、100人分の個人レベル部分効用(階層ベイズ推定を模して分散を持たせて生成)から、3つのルールでシェアを比較する。

ファーストチョイス・ルールは最も極端な(0か1に近い)シェア配分になりやすく、ロジットルールは相対的に均等寄りのシェアを与える。RFCは両者の中間的な結果になる傾向がある。どのルールを採用するかは、実際の市場での「勝者総取り度合い」がどの程度かという業界知識と、ホールドアウトタスク(実験計画(属性・水準の設計)、モデル評価)での予測精度検証によって選ぶ。

What-ifシミュレーション

同じ枠組みで、自社製品Xの属性(価格や容量)を変化させたときにシェアがどう変化するかをシミュレーションできる。これにより、価格改定や新機能追加の意思決定を、実際の市場投入前に定量的に評価できる。

参考

  • Huber, J., Orme, B., & Miller, C. (1999). Dealing with product similarity in conjoint simulations. Sawtooth Software Conference Proceedings.

  • Orme, B. K. (2010). Getting Started with Conjoint Analysis: Strategies for Product Design and Pricing Research. Research Publishers LLC.