数学の初歩#

数学の用語#

公理、定義、定理#

公理(axiom):理由なく正しいとする文章。 数学は演繹的に考えていく学問なので、ベースとなるルールを定めておく必要がある。それが公理。

定義(definition):議論を進めるための取り決め。言葉の約束事。

定理(theorem):公理から導出され、定義された言葉のみで正しさを証明できる文章

命題、補題、系#

命題(proposition):

  • 広義には、「公理のもとで正しいかどうかを判断できる文章」を命題や予想という。

  • 狭義には、「公理のもとで正しいことが証明できる文章」で、定理ほど重要度が高くないもの。

補題(lemma):定理を証明するために補助的に使う文章

(corollary):すでに証明された定理から比較的簡単に導き出される文章

論理式#

命題関数#

定義 (命題関数)

文章中に変数を含み、その変数を定めるごとに広義の命題になる文章を命題関数という。

例えば

\(a\)は整数である

という文章は、\(a\)の具体的な値が定まらなければ正しいかどうかを判断できない。

例えば、

  • \(a=1\)なら「\(a\)は整数である」という文章は「1は整数である」という正しい広義の命題。

  • \(a=3.7\)なら「\(a\)は整数である」という文章は「3.7は整数である」という正しくない広義の命題。

\[ P(a): aは整数である \]

というような記法もある。述語とも呼ばれる。

広義の命題が入る箱として文字を使う場合もある。

定義(定数的命題、変数的命題)

定まった1つの広義の命題を表すために文字\(p\)を用いた場合、\(p\)定数的命題と呼び、 広義の命題が入る箱として\(q\)を用いた場合、\(q\)変数的命題と呼ぶ。

変数的命題が取りうる値を網羅した表を真偽表という。

\(p\)

\(q\)

\(p \land q\)

0

0

0

1

0

0

0

1

0

1

1

1

論理式#

定義 (論理式)

命題を表現し、文法に則っている記号列を論理式(formula)という。

論理演算子と構成命題#

記号

意味

定義

\(\lnot\)

否定

\(p\)ではない」を\(\lnot p\)と書き、否定命題と呼ぶ

\(\land\)

かつ

\(p\)かつ\(q\)」を\(p\land q\)と表し、論理積と呼ぶ

\(\lor\)

または

\(p\)または\(q\)」を\(p \lor q\)と表し、論理和と呼ぶ

\(\Rightarrow\)

ならば

\(p\)ならば\(q\)」を\(p \Rightarrow q\)と表す

\(\Leftrightarrow\)

同値

\((p\Rightarrow q)\land (p \Leftarrow q)\)\(p \Leftrightarrow q\)と書く

\(\forall\)

すべての

-

\(\exists\)

存在する

-

こうした記号を論理演算子といい、論理演算子を組み合わせて構成された広義の命題(例えば\((p\Rightarrow q) \land r\)など)を構成命題という。

対偶#

定義 (逆)

\(p, q\)を広義の命題とする。\(p \Rightarrow q\)という広義の命題に対して、\(q \Rightarrow p\)という広義の命題を「\(p\)ならば\(q\)逆の命題」もしくは「\(p\)ならば\(q\)」という。

例:「雨が降った \(\Rightarrow\) 服が濡れている」と「服が濡れている \(\Rightarrow\) 雨が降った」は互いに逆の命題。

定義 (裏)

\(p, q\)を広義の命題とする。\(p \Rightarrow q\)という広義の命題に対して、「\(p\)でないなら\(q\)でない」という広義の命題

\[ \lnot p \Rightarrow \lnot q \]

を「\(p\)ならば\(q\)裏の命題」もしくは「\(p\)ならば\(q\)」という。

例:\(x^2 + y^2 = 0 \Rightarrow x = 0 \land y=0\) の裏は\(x^2 + y^2 \neq 0 \Rightarrow \lnot (x = 0 \land y=0)\)

定義 (対偶)

\(p, q\)を広義の命題とする。\(p \Rightarrow q\)に対して

\[ \lnot q \Rightarrow \lnot p \]

を「\(p\Rightarrow q\)対偶の命題」もしくは単に「\(p\Rightarrow q\)対偶」という

例:「東京都に住んでいるならば日本に住んでいる」と「日本に住んでいないならば東京都に住んでいない」

同値#

定義(同値)

2つの構成命題の真偽表について、縦の真偽値の並びがおなじになっている時、2つの構成命題は同値であるという。 仮に\(p, q\)を変数的命題とし、\(A(p, q), B(p, q)\)を構成命題とすると、\(A(p, q)\)\(B(p, q)\)が同値であるとき、

\[ A(p, q) \equiv B(p, q) \]

と書く。

例えば二重否定(「\(p\)でなくはない」)は元の命題と同値である。

定理(二重否定)

\(p\)を変数的命題とする。このとき以下が成立する。

\[ p \equiv \lnot (\lnot p) \]

\(p\)

\(\lnot p\)

\(\lnot \lnot p\)

1

0

1

0

1

0

この表の\(p\)\(\lnot \lnot p\)は真偽値の並びが等しい。よって同値である。

全称命題#

\(\forall\)は「すべての~」「任意の~」という意味の記号で、全称記号という。

自由変数(命題関数に代入する変数)と全称記号がくっついた形は全称命題という。

定義(全称命題)

\(P(x)\)を命題関数とする。このとき

\[ \forall x, p(x) \]

という形の命題を全称命題と呼び、意味としては

すべての\(x\)に対して\(P(x)\)が成り立つ

という広義の命題を表す。

例えば

「任意の\(x>0\)に対して、\(x^2>0\)が成り立つ」は

\[ \forall x > 0, \ x^2 > 0 \]

と書くことができる

存在命題#

\(\exists\)は「~を満たすものが存在する」「ある~が存在して、~が成り立つ」という意味である

例えば

\[ \exists 村 \text{s.t.} ミカンのなる木が生えている \]

は「ミカンのなる木が生えているような村が存在する」という意味になる(\(\text{s.t.}\)はsuch thatで「that以下のような」)

定義(存在命題)

\(P(x)\)を命題関数とする。このとき

\[ \exists x \ \text{s.t.} \ P(x) \]

という形の命題を存在命題と呼ぶ。

例えば

「ある\(x \in \mathbb{R}\)が存在して、\(x^2 = 0\)が成り立つ」

\[\begin{split} \exists x \in \mathbb{R}, \ x^2 = 0\\ \exists x \in \mathbb{R} \operatorname{ s.t. } x^2 = 0\\ \end{split}\]

などと書くことができる。

参考:∀(全称記号,任意の)と∃(存在記号,存在する)の使い方 | 数学の景色

ド・モルガンの法則#

定義(論理のド・モルガンの法則)

\(p, q\)を変数的命題とする。このとき以下が成立する

\[\begin{split} \lnot (p\land q) \equiv (\lnot p \lor \lnot q)\\ \lnot (p\lor q) \equiv (\lnot p \land \lnot q) \end{split}\]

証明#

証明とは、広義の命題について、真であるか偽であるかをあきらかにすること。

対偶法による証明の例#

\(n\)を自然数とする。このとき\(n^2\)が偶数ならば\(n\)は偶数であることを証明せよ

(証明)

\[\begin{split} a: n^2が偶数である\\ b: nが偶数である \end{split}\]

とおくと、証明しなければいけないのは\(a\Rightarrow b\)

対偶\(\lnot b \Rightarrow \lnot a\)を考えると、

\[\begin{split} \lnot a: n^2が偶数でない(=奇数である)\\ \lnot b: nが偶数でない(=奇数である) \end{split}\]

となり、奇数を扱う方法に変換できる。

奇数は\(2 \times \text{自然数} + 1\)の形で表すことができる。 \(n\)\(n=2k+1 (k=0, 1,2,3,\cdots)\)と表すことができるため、\(n^2\)を計算すると

\[\begin{split} \begin{align} n^2 &= (2k+1)^2 = 4k^2 + 4k + 1\\ &= 2 (2k^2 + 2k) + 1 \end{align} \end{split}\]

\(2k^2 + 2k\)は自然数なので、\(n^2\)\(2 \times \text{自然数} + 1\)の形になっている。よって\(n\)が奇数なら\(n^2\)は奇数である

証明の構造

上記の証明は次のように構造化できる

大前提(定理):対偶の真偽は一致する
小前提(事実):証明したい事柄の対偶が真であった
結論:証明したい事柄は真