基底#
基底#
(定義)基底
ベクトル空間\(V\)と、ベクトルの組\(\boldsymbol{a}_1, \dots, \boldsymbol{a}_n \in V\)が次の2つの条件を満たすとき、\(V\)の基底という
\(\boldsymbol{a}_1, \dots, \boldsymbol{a}_n\)は線形独立(1次独立)である
\(\boldsymbol{a}_1, \dots, \boldsymbol{a}_n\)は\(V\)を生成する。すなわち、\(V\)の任意の元は\(\boldsymbol{a}_1, \dots, \boldsymbol{a}_n\)の線形結合の形に書かれる(\(V=\operatorname{Span}\{\boldsymbol{a}_1, \dots, \boldsymbol{a}_n\}\))
例えば\(L=\mathbb{R}^2\)であれば、\(\boldsymbol{x}_1 = (1, 0)^T, \boldsymbol{x}_2 = (0, 1)^T\)という線形独立なベクトルを用いて
と書くことができる。\(\dim \mathbb{R}^2 = 2\)であり、\(\boldsymbol{x}_1, \boldsymbol{x}_2\)は\(\mathbb{R}^2\)の基底になる。
例題
\(\boldsymbol{R}^2\) において, ベクトルの組
が\(\boldsymbol{R}^2\)の基底であるか判定せよ
まず、線形独立であるかを判断する。実数スカラー\(c_1,c_2\)を用いて
とおいたときの連立方程式
を解くと\(c_1=c_2=0\)であるため、\(\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2\)は線形独立である。
次に、\(\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2\)が\(\boldsymbol{R}^2\)を形成するか調べる。
任意のベクトル\(\boldsymbol{b}=\begin{pmatrix} b_1\\ b_2 \end{pmatrix}\)に対して、等式
を満たす\(c_1, c_2\)が存在するかどうか調べる。
この方程式を行列で表記すると
であり、未知数\(c_1,c_2\)に解があるかどうかは行列式を用いて判定できる。
であり、行列式が零ではないため解が一意的に存在する。よって\(\boldsymbol{a}_1, \boldsymbol{a}_2\)は\(\boldsymbol{R}^2\)の基底である。
(定義)次元
ベクトル空間\(V\)が\(n\)個の元から成る基底をもつならば、他のどんな基底も\(n\)個の元から成る。
このとき\(V\)の次元は\(n\)であるといい、\(\dim V\)で表す。
基底に関する例題#
例題
は\(\mathbb{R}^3\)の基底であることを示せ
\(A = (a_1, a_2, a_3)\)とすると、その行列式は
行列式がゼロでないため、ランク落ちがなく\(a_1,a_2,a_3\)は基底である
基底変換と線形写像#
成分ベクトル#
ベクトル空間\(V\)の基底 \(a_1, \cdots, a_n\) に関して, \(V\) の任意のベクトル \(a\) は
と一意的に表される。
このとき、
を、ベクトル\(a\)の基底\(a_1, \cdots, a_n\)に関する 成分 あるいは 成分ベクトル という。
定理
ベクトル空間\(V\)の基底 \(a_1, \cdots, a_n\) に関して, \(V\) の任意のベクトル \(a\) が
と表され、別の基底\(b_1, \dots, b_n\)を用いて
と表されるとき、
が成り立つ。
ただし、\(P =(p_{ij})\)は正則行列であり、2つの基底の間の関係を
と表すものである。
線形写像の行列表現#
ベクトル空間のあいだの線形写像を行列で表し、行列の理論で解析することができる。
\(V, W\) をベクトル空間, \(v_1, \cdots, v_n, w_1, \cdots, w_m\) をそれぞれ \(V, W\) の基底とする。ここで\(n = \operatorname{dim} V, \ m=\operatorname{dim} W\)である。
線形写像\(f: V\to W\)があるとすると、\(f(v_1), \cdots, f(v_n)\)は\(W\)のベクトルであるため、\(W\)の基底の1次結合として一意的に
と表すことができる。まとめて書けば
である。
この係数\(a\)が作る行列の転置行列を\(A_f\)と書くことにすると、この行列\(A_f\)は\(f\)により一意的に決まる行列であり、
と表すことができる。
具体例
ベクトル空間\(V = \mathbb{R}^3, W=\mathbb{R}^2\) とする。
線形写像\(f: V \to W\)が存在し、
であるとする。
\(V\)の標準基底
を使って\(W\)へ写したものは
となる。
これらに対し、\(W\)の基底
を使って
と写すような行列\(A\)を求めたい。
方法1:連立方程式を求める
を解く。
方法2:行列として連立方程式を解く
すなわち
について、
の逆行列を求めて左から両辺に掛けて\(A\)を求める
逆行列の求め方は、例えば
とおいて、\(M M^{-1} = I\)(\(I\)は単位行列)という式を建てて未知数\(M^{-1}\)と求めることにして、拡大係数行列\([M|I]\)を作って行基本変形で求めればよい。
を変形すると
となるので、
もとの式の両辺に左からかけて
とすると、
さて、\(V\)の任意のベクトル\(x\)を\(\displaystyle \left(\begin{array}{c} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{array}\right)\)とすると、こちらも基底の1次結合として表すことができるため
である。そして\(W\)のベクトル\(\boldsymbol{y}=f(\boldsymbol{x}) =\left(\begin{array}{c} y_1 \\ \vdots \\ y_m \end{array}\right)\)があるとすると
である。この式と、式
より、\(x\) と \(y\) の成分ベクトルの間には
という関係が成り立つ。
逆に, 任意の \(m \times n\) 行列 \(A=\left(a_{i j}\right)\) が与えられたとする. \(V\) の任意のべクトル \(\boldsymbol{x}=\sum_{j=1}^n x_j \boldsymbol{v}_j\) に対して
とおくことにより、写像
が定義されるが、この写像は線形写像である。
線形写像\(f: V \to W\)に対して上の方法で定まる\(m\times n\)行列\(A\)を、\(V\)の基底\(\boldsymbol{v}_1, \dots, \boldsymbol{v}_n\)と\(W\)の基底\(\boldsymbol{w}_1,\dots,\boldsymbol{w}_m\)に関する\(f\)の 表現行列 または \(f\)の 行列表示 または \(f\)に 対応する行列 などという。
次の線形写像 \(f: \mathbb{R}^2 \rightarrow \mathbb{R}^2\) を考える。
基底
に関する、この線形写像の表現行列を求めよ。
Step 1: 写像による変換後のベクトルを取得
基底ベクトルに線形写像を適用すると、
である。
Step 2: 1次結合にして係数を求める
変換後のベクトル\(f(\boldsymbol{v}_1)\)を基底の1次結合で表現すると
この連立1次方程式を解くと\(a_{11} = 3/2, a_{12} = 3/2\)
同様に、
は\(a_{21} = 3/2, a_{22} = -1/2\)
よって表現行列は
f(v1) = [3. 0.]
f(v2) = [1. 2.]
import numpy as np
v1 = np.array([1, 1])
v2 = np.array([1, -1])
A = np.array([
[3/2, 3/2],
[3/2, -1/2],
])
print("f(v1) =", A[0, 0] * v1 + A[0, 1] * v2)
print("f(v2) =", A[1, 0] * v1 + A[1, 1] * v2)
f(v1) = [3. 0.]
f(v2) = [1. 2.]
A @ v1
A @ v2
array([0., 2.])
基底の変換#
基底の取り方を変えると、行列表現も変わる。
ベクトル空間 \(V\) の 2つの基底 \(v_1, \cdots, v_n, v_1^{\prime}, \cdots, v_n^{\prime}\) をとる。 各 \(v_j^{\prime}\) は \(v_1, \cdots, v_n\) の 1 次結合として表わされるから、
と書かれる。ここで \(P=\left(p_{i j}\right)\) とおくと、上の式は
とまとめて表わされる。\(P\)は2つの基底のあいだの変換行列であり、正則行列である。
定理
\(f: V \rightarrow W\) を線形写像とする。
\(V\) の基底 \(v_1, \cdots, \boldsymbol{v}_n\) と \(W\) の基底 \(w_1, \cdots, w_m\) に関する \(f\) の表現行列を \(A\)、
\(V\) の基底 \(v_1^{\prime}, \cdots, v_n{ }^{\prime}\) と \(W\) の基底 \(\boldsymbol{w}_1{ }^{\prime}, \cdots, \boldsymbol{w}_m{ }^{\prime}\) に関する \(f\) の表現行列を \(B\) とする。
また、基底の変換の行列をそれぞれ \(P, Q\) とする。すなわち
とおく。
このとき
が成り立つ。
定理
\(n\)次元ベクトル空間の\(V\)について、線形写像\(f: V \rightarrow V\)があるとする。
\(V\)の1組の基底 \(\boldsymbol{u}_1, \cdots, \boldsymbol{u}_n\) に関する \(f\) の表現行列を \(A\)、
\(V\) の他の基底 \(\boldsymbol{v}_1, \cdots, \boldsymbol{v}_n\) に関する \(f\) の表現行列を \(B\) とする。
そして, この 2 つの基底の変換の行列を \(P\) とする. すなわち,
このとき,
が成り立つ。
なお、
のような関係にある2つの行列\(A, B\)は 相似 (similar)、あるいは同値(equivalent)、または共役(conjugate)であるという。