線形写像#
線型写像(linear mapping)あるいは線型変換(linear transformation; 一次変換)は、ベクトルの和とスカラー倍という演算をもつ特別の写像のことを指す。
写像#
集合 \(X\) の元に対して, 集合 \(Y\) の元を定める対応 \(f\) のことを写像といい
と表わす。 そのとき \(X\) を \(f\) の定義域、 \(Y\) を \(f\) の 値域 あるいは 終域 という。
写像 \(f: X \rightarrow Y\) によって \(x\in X\)に\(y\in X\)が対応するとき、 \(y\) を \(f\) による \(x\) の像といい、
と書く。
\(x\) が \(X\) のすべての元をわたるとき、 \(x\) の像 \(f(x)\) 全体のつくる \(Y\) の部分集合を、 写像 \(f\) の像といい, \(\operatorname{Im} f\) または \(f(X)\) で表わす。すなわち、
である。
全射#
一般に \(\operatorname{Im} f\) は \(Y\) の部分集合であるが、とくに
のとき、 \(f\) は 全射 であるという.
単射#
\(x_1, x_2 \in X\)、\(x_1 \neq x_2\)に対して\(f(x_1) \neq f(x_2)\)が成り立つとき、\(f\)は 単射 であるという。
\(f\)が全射かつ単射のとき、\(f\)は 全単射 であるという。
恒等写像#
\(x\in X\)に対して同じ元\(x\)を対応させる写像を 恒等写像 といい、通常
で表す。
逆写像#
写像\(f: X\to Y\)が全単射ならば、写像\(f^{-1}: Y \to X\)が存在して、
を満たす。\(f^{-1}\)を 逆写像 という。
線形写像#
(定義)線形写像
\(n\)次元ベクトル空間\(\mathbb{R}^n\)の任意のベクトル\(\b{a}, \b{b}\)と任意のスカラー\(c\)に対して
\(f(\b{a}+\b{b}) = f(\b{a}) + f(\b{b})\)
\(f(c \b{a}) = c f(\b{a})\)
が成り立つとき、\(n\)次元ベクトル空間\(\mathbb{R}^n\)から\(m\)次元ベクトル空間\(\mathbb{R}^m\)への写像
を線形写像という。
標準基底#
\(\mathbb{R}^n\)上の次のベクトルを考える
\(j=1,2,\dots,n\)としたとき、\(\b{e}_j\)の\(j\)番目の要素が\(1\)、それ以外のすべての要素が\(0\)のベクトルである。
こうしたベクトルの組\(\b{e}_1, \b{e}_2, \dots, \b{e}_n\)を標準基底という。
標準基底の写り方で行列が定まる#
線形写像\(f: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m\)が与えられたとする。これらの像は\(m\)次元のベクトルになる。
\(\mathbb{R}^m\)の標準基底を\(\b{e}'_1, \b{e}'_2, \dots, \b{e}'_m\)とすると
このような列ベクトルを順に並べると\(m\times n\)行列が定まる。この行列を\(A\)と書くことにすると
つまり、線形写像\(f: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m\)が与えられると、それに応じて\(m\times n\)行列が定まる。
超ざっくりまとめると「行列は写像である」ということになる。
線形写像で行列が定まる
任意の線形写像\(f: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m\)に対して
によって\(m\times n\)行列
が定まる
線形写像はベクトルに行列をかけることにより与えられる#
\(\mathbb{R}^n\)のベクトルを\(\b{x}\)で表すことにする。
\(f(\b{x})\)は、線形写像が満たしている線形性の条件を使って整理すると
となる。
線形写像はベクトルに行列をかけることにより与えられる
\(\mathbb{R}^n\)の任意のベクトル\(\b{x}\)に対して
が成り立つ
行列は線形写像を定義する#
逆に、行列が与えられると線形写像が定義される。
任意の\(m\times n\)行列\(A=(a_{ij})\)が与えられたとき、写像
を
に対して
によって定義する。
この写像\(f_A\)は以下を満たすため線形写像である
\(f_A(\b{x} + \b{y}) = A(\b{x}+\b{y}) = A\b{x} + A\b{y} = f_A(\b{x}) + f_A(\b{y})\)
\(f_A(c \b{x}) = A(c \b{x}) = c A\b{x} = c f_A(\b{x})\)
線形写像の合成=表現行列の積#
2つの線形写像の合成に対応する行列は、それぞれの写像に対応する行列の積に等しい(そうなるように行列の積が定義されたらしい)
定理
\(V, W, X\) をベクトル空間, \(v_1, \cdots, v_n, w_1, \cdots, w_m, x_1, \cdots, x_l\) をそれぞれ \(V, W, X\) の基底とする。 2 つの線形写像
が与えられたとき, 上記基底に関して, \(f, g\) に対応する行列をそれぞれ \(A, B\) と すると,写像の合成
に対応する行列 \(C\) は, 等式
をみたす。
証明
\(A=(a_{ij}), B=(b_{kj})\)とし、
\(\mathbb{R}^n\)の標準基底を\(\b{e}_1, \cdots, \b{e}_n\)
\(\mathbb{R}^m\)の標準基底を\(\b{e}'_1, \cdots, \b{e}'_m\)
\(\mathbb{R}^l\)の標準基底を\(\b{e}''_1, \cdots, \b{e}''_l\)
とすると
ベクトルとして等しいため各成分同士が等しいということであり、\(\b{e}_k''\)の係数がそれぞれ等しい
行列の各成分でも等しいことが成り立つため
同型写像#
ベクトル空間 \(V\) からベクトル空間 \(W\) への線形写像 \(f\) が全単射であるとき, \(f\) を \(V\) から \(W\) への同型写像という。
また, 同型写像 \(f: V \rightarrow W\) が存在するとき, \(V\) は \(W\) に同型であるといい, \(V \cong W\) と書く。
\(f: V \rightarrow W\) が同型写像であると、\(f\) の逆写像 \(f^{-1}: W \rightarrow V\) が存在する。 \(f^{-1}\) も全単射であるが、必然的に線形写像になる。
証明
\(V, W\)を\(\mathbb{R}\)上のベクトル空間とする。
\(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y} \in W\) とする。このとき, \(f \circ f^{-1}\) は恒等写像で, \(f\) は線形写像であるから,
が成立する。
よって \(f \circ f^{-1}(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})=f\left(f^{-1}(\boldsymbol{x})+f^{-1}(\boldsymbol{y})\right)\) であり,両辺を \(f^{-1}\) でうつすと,
となる。
また \(k \in \mathbb{R}\) に対して
なので, \(f \circ f^{-1}(k \boldsymbol{x})=f\left(k f^{-1}(\boldsymbol{x})\right)\) がわかる。両辺を \(f^{-1}\) でうつすと、
となる。ゆえに \(f^{-1}\) は線形写像である。(線形同型写像とベクトル空間の同型 | 数学の景色)
参考文献#
川久保勝夫(2010)『線形代数学 (新装版)』