線形写像#

線型写像(linear mapping)あるいは線型変換(linear transformation; 一次変換)は、ベクトルの和とスカラー倍という演算をもつ特別の写像のことを指す。

\[ % 太字のalias \newcommand{\b}[1]{\boldsymbol{#1}} % 演算子の定義 \DeclareMathOperator{\im}{ \text{Im} } \DeclareMathOperator{\rank}{ \text{rank} } \DeclareMathOperator{\span}{ \text{Span} } \DeclareMathOperator{\Ker}{ \text{Ker} } \]

写像#

集合 \(X\) の元に対して, 集合 \(Y\) の元を定める対応 \(f\) のことを写像といい

\[ f: X \longrightarrow Y \]

と表わす。 そのとき \(X\)\(f\)定義域\(Y\)\(f\)値域 あるいは 終域 という。

写像 \(f: X \rightarrow Y\) によって \(x\in X\)\(y\in X\)が対応するとき、 \(y\)\(f\) による \(x\) の像といい、

\[ y=f(x) \]

と書く。

\(x\)\(X\) のすべての元をわたるとき、 \(x\) の像 \(f(x)\) 全体のつくる \(Y\) の部分集合を、 写像 \(f\)といい, \(\operatorname{Im} f\) または \(f(X)\) で表わす。すなわち、

\[ \operatorname{Im} f=f(X)=\{f(x) \mid x \in X\} \]

である。

全射#

一般に \(\operatorname{Im} f\)\(Y\) の部分集合であるが、とくに

\[ \operatorname{Im} f=Y \]

のとき、 \(f\)全射 であるという.

単射#

\(x_1, x_2 \in X\)\(x_1 \neq x_2\)に対して\(f(x_1) \neq f(x_2)\)が成り立つとき、\(f\)単射 であるという。

\(f\)が全射かつ単射のとき、\(f\)全単射 であるという。

恒等写像#

\(x\in X\)に対して同じ元\(x\)を対応させる写像を 恒等写像 といい、通常

\[ \operatorname{id}: X\to X \]

で表す。

逆写像#

写像\(f: X\to Y\)が全単射ならば、写像\(f^{-1}: Y \to X\)が存在して、

\[ f \circ f^{-1} = \operatorname{id} \quad f^{-1} \circ f = \operatorname{id} \]

を満たす。\(f^{-1}\)逆写像 という。

線形写像#

(定義)線形写像

\(n\)次元ベクトル空間\(\mathbb{R}^n\)の任意のベクトル\(\b{a}, \b{b}\)と任意のスカラー\(c\)に対して

  1. \(f(\b{a}+\b{b}) = f(\b{a}) + f(\b{b})\)

  2. \(f(c \b{a}) = c f(\b{a})\)

が成り立つとき、\(n\)次元ベクトル空間\(\mathbb{R}^n\)から\(m\)次元ベクトル空間\(\mathbb{R}^m\)への写像

\[ f: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m \]

線形写像という。

標準基底#

\(\mathbb{R}^n\)上の次のベクトルを考える

\[\begin{split} \b{e}_1 = \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} , \hspace{1em} \b{e}_2 = \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} , \hspace{1em} \cdots , \hspace{1em} \b{e}_n = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 1 \end{pmatrix} \end{split}\]

\(j=1,2,\dots,n\)としたとき、\(\b{e}_j\)\(j\)番目の要素が\(1\)、それ以外のすべての要素が\(0\)のベクトルである。

こうしたベクトルの組\(\b{e}_1, \b{e}_2, \dots, \b{e}_n\)標準基底という。

標準基底の写り方で行列が定まる#

線形写像\(f: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m\)が与えられたとする。これらの像は\(m\)次元のベクトルになる。

\[\begin{split} f(\b{e}_j) = \begin{pmatrix} a_{1j} \\ a_{2j} \\ \vdots \\ a_{mj} \end{pmatrix} \end{split}\]

\(\mathbb{R}^m\)の標準基底を\(\b{e}'_1, \b{e}'_2, \dots, \b{e}'_m\)とすると

\[\begin{split} \begin{align} f(\b{e}_j) &= \begin{pmatrix} a_{1j} \\ a_{2j} \\ \vdots \\ a_{mj} \end{pmatrix}\\ &= \begin{pmatrix} a_{1j} \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} 0 \\ a_{2j} \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} + \cdots + \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ a_{mj} \end{pmatrix} \\ &= a_{1j} \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} + a_{2j} \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} + \cdots + a_{mj} \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 1 \end{pmatrix} \\ &= a_{1j} \b{e}'_1 + a_{2j} \b{e}'_2 + \cdots + a_{mj} \b{e}'_m\\ &= \sum_{i=1}^m a_{ij} \b{e}'_i \end{align} \end{split}\]

このような列ベクトルを順に並べると\(m\times n\)行列が定まる。この行列を\(A\)と書くことにすると

\[\begin{split} A = \begin{pmatrix} f(\b{e}_1) & f(\b{e}_2) & \cdots & f(\b{e}_j) & \cdots & f(\b{e}_n) \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1j} & \cdots & a_{1m}\\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2j} & \cdots & a_{2m}\\ \vdots & \vdots & & & \vdots\\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nj} & \cdots & a_{nm}\\ \end{pmatrix} \end{split}\]

つまり、線形写像\(f: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m\)が与えられると、それに応じて\(m\times n\)行列が定まる

超ざっくりまとめると「行列は写像である」ということになる。

線形写像で行列が定まる

任意の線形写像\(f: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m\)に対して

\[ f(\b{e}_j) = \sum_{i=1}^m a_{ij} \b{e}'_i \]

によって\(m\times n\)行列

\[ A=(a_{ij}) \]

が定まる

線形写像はベクトルに行列をかけることにより与えられる#

\(\mathbb{R}^n\)のベクトルを\(\b{x}\)で表すことにする。

\[\begin{split} \b{x} = \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots\\ x_n \end{pmatrix} = x_1 \b{e}_1 + x_2 \b{e}_2 + \cdots + x_n \b{e}_n \end{split}\]

\(f(\b{x})\)は、線形写像が満たしている線形性の条件を使って整理すると

\[\begin{split} \begin{align} f(\b{x}) &= f(x_1 \b{e}_1 + x_2 \b{e}_2 + \cdots + x_n \b{e}_n)\\ &= f(x_1 \b{e}_1) + f(x_2 \b{e}_2) + \cdots + f(x_n \b{e}_n)\\ &= x_1 f(\b{e}_1) + x_2 f(\b{e}_2) + \cdots + x_n f(\b{e}_n)\\ &= x_1 \begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{21} \\ \vdots \\ a_{m1} \end{pmatrix} + x_2 \begin{pmatrix} a_{12} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{m2} \end{pmatrix} + \cdots + x_n \begin{pmatrix} a_{1n} \\ a_{2n} \\ \vdots \\ a_{mn} \end{pmatrix}\\ &= \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1j} & \cdots & a_{1m}\\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2j} & \cdots & a_{2m}\\ \vdots & \vdots & & & \vdots\\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nj} & \cdots & a_{nm}\\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots\\ x_n \end{pmatrix}\\ &= \b{A x} \end{align} \end{split}\]

となる。

線形写像はベクトルに行列をかけることにより与えられる

\(\mathbb{R}^n\)の任意のベクトル\(\b{x}\)に対して

\[ f(\b{x}) = \b{A x} \]

が成り立つ

行列は線形写像を定義する#

逆に、行列が与えられると線形写像が定義される。

任意の\(m\times n\)行列\(A=(a_{ij})\)が与えられたとき、写像

\[ f_A: \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^m \]

\[ \b{x} \in \mathbb{R}^n \]

に対して

\[ f_A(\b{x}) = \b{A x} \]

によって定義する。

この写像\(f_A\)は以下を満たすため線形写像である

  1. \(f_A(\b{x} + \b{y}) = A(\b{x}+\b{y}) = A\b{x} + A\b{y} = f_A(\b{x}) + f_A(\b{y})\)

  2. \(f_A(c \b{x}) = A(c \b{x}) = c A\b{x} = c f_A(\b{x})\)

線形写像の合成=表現行列の積#

2つの線形写像の合成に対応する行列は、それぞれの写像に対応する行列の積に等しい(そうなるように行列の積が定義されたらしい)

定理

\(V, W, X\) をベクトル空間, \(v_1, \cdots, v_n, w_1, \cdots, w_m, x_1, \cdots, x_l\) をそれぞれ \(V, W, X\) の基底とする。 2 つの線形写像

\[ f: V \longrightarrow W, \quad g: W \longrightarrow X \]

が与えられたとき, 上記基底に関して, \(f, g\) に対応する行列をそれぞれ \(A, B\) と すると,写像の合成

\[ g \circ f: V \longrightarrow X \]

に対応する行列 \(C\) は, 等式

\[ C=B A \]

をみたす。

証明

\(A=(a_{ij}), B=(b_{kj})\)とし、

\(\mathbb{R}^n\)の標準基底を\(\b{e}_1, \cdots, \b{e}_n\)

\(\mathbb{R}^m\)の標準基底を\(\b{e}'_1, \cdots, \b{e}'_m\)

\(\mathbb{R}^l\)の標準基底を\(\b{e}''_1, \cdots, \b{e}''_l\)

とすると

\[\begin{split} \begin{aligned} g \circ f\left(\boldsymbol{e}_i\right) & = g\left(\sum_{j=1}^m a_{j i} \boldsymbol{e}_j^{\prime}\right) = \sum_{j=1}^m a_{j i} g\left(\boldsymbol{e}_j^{\prime}\right) = \sum_{j=1}^m a_{j i} \sum_{k=1}^l b_{k j} \boldsymbol{e}_k{ }^{\prime \prime} \\ & =\sum_{j=1}^m \sum_{k=1}^l a_{j i} b_{k j} \boldsymbol{e}_k{ }^{\prime \prime} = \sum_{k=1}^l\left(\sum_{j=1}^m b_{k j} a_{j i}\right) \boldsymbol{e}_k^{\prime \prime}\\ &= \sum_{k=1}^l c_{ki} \b{e}_k'' \end{aligned} \end{split}\]

ベクトルとして等しいため各成分同士が等しいということであり、\(\b{e}_k''\)の係数がそれぞれ等しい

\[ \sum_{j=1}^m b_{k j} a_{j i} = c_{ki} \]

行列の各成分でも等しいことが成り立つため

\[ BA = C \]

同型写像#

ベクトル空間 \(V\) からベクトル空間 \(W\) への線形写像 \(f\) が全単射であるとき, \(f\)\(V\) から \(W\) への同型写像という。

また, 同型写像 \(f: V \rightarrow W\) が存在するとき, \(V\)\(W\) に同型であるといい, \(V \cong W\) と書く。

\(f: V \rightarrow W\) が同型写像であると、\(f\) の逆写像 \(f^{-1}: W \rightarrow V\) が存在する。 \(f^{-1}\) も全単射であるが、必然的に線形写像になる。

証明

\(V, W\)\(\mathbb{R}\)上のベクトル空間とする。

\(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y} \in W\) とする。このとき, \(f \circ f^{-1}\) は恒等写像で, \(f\) は線形写像であるから,

\[\begin{split} \begin{aligned} \boldsymbol{x}+\boldsymbol{y} & =f \circ f^{-1}(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}) \\ \boldsymbol{x}+\boldsymbol{y} & =f \circ f^{-1}(\boldsymbol{x})+f \circ f^{-1}(\boldsymbol{y}) \\ & =f\left(f^{-1}(\boldsymbol{x})+f^{-1}(\boldsymbol{y})\right) \end{aligned} \end{split}\]

が成立する。

よって \(f \circ f^{-1}(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})=f\left(f^{-1}(\boldsymbol{x})+f^{-1}(\boldsymbol{y})\right)\) であり,両辺を \(f^{-1}\) でうつすと,

\[ f^{-1}(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})=f^{-1}(\boldsymbol{x})+f^{-1}(\boldsymbol{y}) \]

となる。

また \(k \in \mathbb{R}\) に対して

\[\begin{split} \begin{aligned} & k \boldsymbol{x}=f \circ f^{-1}(k \boldsymbol{x}) \quad (\because 恒等写像のため) \\ & k \boldsymbol{x}=k f \circ f^{-1}(\boldsymbol{x})=f\left(k f^{-1}(\boldsymbol{x})\right) \quad (\because fが線形性を満たすため) \end{aligned} \end{split}\]

なので, \(f \circ f^{-1}(k \boldsymbol{x})=f\left(k f^{-1}(\boldsymbol{x})\right)\) がわかる。両辺を \(f^{-1}\) でうつすと、

\[ f^{-1}(k \boldsymbol{x})=k f^{-1}(\boldsymbol{x}) \]

となる。ゆえに \(f^{-1}\) は線形写像である。(線形同型写像とベクトル空間の同型 | 数学の景色

参考文献#