内積空間#
内積#
ベクトル\(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \in \mathbb{R}^n\)に対して、実数値
をベクトル\(\boldsymbol{a}\)と\(\boldsymbol{b}\)の 内積 といい、記号\((\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b})\) や \(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle\)などで表す。
標準的な内積#
任意の2つのベクトル\(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}\)に対して、実数\(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle\)を対応させる対応
のことを、\(\mathbb{R}^n\)の 内積 という。この内積のことを一般の内積と分けて \(\mathbb{R}^n\)の標準的な内積 または 自然な内積 という。
定理
\(R^n\) の標準的な内積は次の性質をもつ.
(1) \(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle = \langle \boldsymbol{b}, \boldsymbol{a} \rangle\) (対称性 と呼ばれる)
(2) \(\langle \boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}, \boldsymbol{c} \rangle = \langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{c} \rangle + \langle \boldsymbol{b}, \boldsymbol{c} \rangle\) ((3)と合わせて 線形性 と呼ばれる)
(3) \(\langle k \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle = \langle \boldsymbol{a}, k \boldsymbol{b} \rangle = k \langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle \quad (k \in \boldsymbol{R})\)
(4) \(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{a} \rangle \geqq 0\)。 ここで \(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{a} \rangle = 0\) と \(\boldsymbol{a} = \mathbf{0}\) とは同値である (正値性)
内積空間(計量ベクトル空間)#
定義
\(\mathbb{R}\) 上のベクトル空間 \(V\) において、任意の2つのベクトル \(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}\) に対して実数 \(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle\) が定まり、次の(1)~(4)を満たすとき、\(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle\) を \(\boldsymbol{a}\) と \(\boldsymbol{b}\) の 内積 という。
(1) \(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle = \langle \boldsymbol{b}, \boldsymbol{a} \rangle\)
(2) \(\langle \boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}, \boldsymbol{c} \rangle = \langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{c} \rangle + \langle \boldsymbol{b}, \boldsymbol{c} \rangle\)
(3) \(\langle k \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle = k \langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle \quad (k \in \mathbb{R})\)
(4) \(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{a} \rangle \geqq 0\) で,\(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{a} \rangle = 0 \Longleftrightarrow \boldsymbol{a} = \mathbf{0}\)
内積の定義されたベクトル空間を 計量ベクトル空間 、または 内積空間 という。
内積は
ノルムは
区間\([a, b]\)上の連続関数\(f(x), g(x)\) に対して
ノルムは
内積の存在#
一般のベクトル空間には、内積が(複数)存在する。
定理
\(V\) をベクトル空間, \(v_1, \cdots, v_n\) をその 1 つの基底とする. \(V\) の 任意のベクトル \(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}\) が与えられたとき,これらをこの基底の 1 次結合で表わす。
そのとき,
とおくと, \(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle\) は内積である。 この内積に関して \(v_1, \cdots, v_n\) は後に述べる正規直交基底である。すなわち、次が成り立つ。
ノルム#
計量ベクトル空間\(V\)では、内積を用いてベクトルの長さが定義される。
\(\boldsymbol{a} \in V\)に対して\(\sqrt{\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{a} \rangle}\)をベクトル\(\boldsymbol{a}\)の 長さ または ノルム といい、\(\|\boldsymbol{a}\|\)で表す。すなわち
である。
コーシー・シュワルツの不等式#
定理(コーシー・シュワルツの不等式)
計量ベクトル空間\(V\)の元\(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \in V\)に対し、
が成立する。等号になるのは \(\boldsymbol{a} = 0\) または \(\boldsymbol{a} = c \boldsymbol{b} (c \in \mathbb{R})\) のとき(1次独立でないとき)に限る
証明
とおくと
\(\boldsymbol{b} \neq 0\)なら、これは\(t\)の2次方程式
であるから、\(f(t) \geq 0\)となる必要十分条件は2次方程式\(f(t) = 0\)が実数解を持たないか、1つの重解をもつこと。 すなわち、判別式\(D\)が0または負となること
2次方程式\(a x^2 + bx + c\)の判別式は\(D=b^2 - 4ac\)のため、
を満たす必要がある。移項して整理すれば
コーシー・シュワルツの不等式はいろいろな形がある。
の平方根の
それを変形して
コーシー・シュワルツの不等式を応用すると、
が成り立つ。
とおくと
三角不等式#
定理(三角不等式)
計量ベクトル空間\(V\)の元\(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \in V\)に対し、
が成立する。
証明
コーシー・シュワルツの不等式 \(| \langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle| \leq \| \boldsymbol{a} \| \cdot \| \boldsymbol{b} \|\) より、
ベクトルのなす角#
\(V\)を計量ベクトル空間とする。\(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \in V\)がどちらもゼロベクトルでないなら、コーシー・シュワルツの不等式より
が成り立つ。これに基づき、
となる\(\theta\)を2つのベクトル\(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}\)のなす角と呼ぶ。
直交#
\(V\)を計量ベクトル空間とする。\(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \in V\)について、\(\langle \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \rangle = 0\)を満たすとき、\(\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}\)は 直交する といい、
で表す
直交補空間#
定義
内積空間 \(V\) の部分空間 \(W\) に対して、 \(W\)のすべてのベクトルと直交するような\(V\)のベクトル全体
を\(W\)の 直交補空間 という。
なお、\(W^\perp\)は\(V\)の部分空間である
証明
(1) \(\boldsymbol{0} \in V\) であり、 \(\langle \boldsymbol{0}, y \rangle = 0\) のため \(\boldsymbol{0} \in W^\perp\)
(2) \(\boldsymbol{x}_1, \boldsymbol{x}_2 \in W^{\perp}\) は、 \(\boldsymbol{y} \in W\)について、
を満たす。標準内積の定義より
であるため、\(\boldsymbol{x}_1 + \boldsymbol{x}_2 \in W^{\perp}\)
(3) \(\boldsymbol{x} \in W^{\perp}\) は、 \(\boldsymbol{y} \in W, c \in \mathbb{R}\)について、
をみたす。標準内積の定義より
のため、\(c \boldsymbol{x} \in W^{\perp}\)
よって、(1) ~ (3)より、\(W^\perp\)は\(V\)の部分空間である
一般に、内積空間 \(V\) の部分空間 \(W\) を考えると、 \(V\) の任意の元は \(x \in W\) および \(\boldsymbol{y} \in W^{\perp}\) を用いて、 \(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}\) と一意的に表されることがわかる。このとこから、 \(W^{\perp}\) を \(W\) の直交補空間という。また、 \(V\) は \(W\) と \(W^{\perp}\) の 直交直和 であるといい、
と表す。\(V\)をこのような形に書くことを 直和分解 という。