誤謬論#
誤った論理的推論について
論理構造の誤りによる誤謬#
論点先取(循環論法)#
論点先取(begging the question) は証明すべき命題を証明の前提や仮定の中に含めてしまう論理的な誤謬。 循環論法(arguing in a circle) とも呼ばれる。
論点先取(循環論法)
Aである(前提)
したがって、Aである(結論)
例:「地獄に落ちたくないから、神は存在する」
地獄があると考えている時点で神の存在を前提としている
矛盾する前提#
矛盾する前提(incompatible premises)
互いに整合性のない前提や両立しない前提から結論を導き出そうとするもの
Aである(前提)
Aではない(前提)
[導き出せる結論はない]
前提と結論の矛盾#
前提と結論の矛盾
少なくとも前提の1つと矛盾する結論を導き出すこと。
Aである(前提)
Bである(前提)
したがってAではない(結論)
例:
アンジェラ:私はアメリカ人だからやりたいことは何をやってもいいの。私たちの祖先は、自由を手に入れるために戦って死んでいった。何をすべきで何をすべきでないかなんて、誰にも私にいうことはできない。
メーガン:でも法律っていうものがあるでしょう、アンジェラ。スピード違反は駄目だし、他人のお金を盗むのも駄目なことでしょう?
アンジェラ:もちろん法律には従うべきよ。でも政府は私に何をしろとはいえないわ。
前提では「政府は私に行動について命令できる」、すなわち法律は守るべきとしながら、結論では「政府は私に何をしろと命令できない」と主張している。
規範的前提の欠如の誤謬#
規範的前提の欠如の誤謬
規範的前提(~べきである)を裏付けとして使わずに、何らかの判断(道徳的判断、法的判断、美的判断)を導き出すこと
前提に「べきである」がないのに結論に「べきである」が来るのは誤謬
例:
〇〇という映画は映像も音楽も素晴らしい(前提)
レビューサイトでも高評価(前提)
したがって、この映画は史上最高の映画である(美的判断)
演繹的推論の誤謬#
代表的な演繹的推論には
条件的推論
三段論法的推論
がある
条件文(「もし~ならば~」)の「もし~」を 前件(antecedent) 、「ならば~」を 後件(consequent) とよぶ。
妥当な条件的推論は
⭕️前件肯定(affirming the antecedent)
もしAならばBである(前提)
Aである(前提)
したがって、Bである(結論)
あるいは
⭕️後件否定(denying the consequent)
もしAならばBである(前提)
Bではない(前提)
したがって、Aではない(結論)
である
前件否定の誤謬#
「もしPならばQである」という前提から、「PではないからQではない」と結論づける、形式的に誤った推論
❌️前件否定の誤謬
もし \(P\) ならば、\(Q\) である。
\(P\) ではない。
したがって、\(Q\) ではない。
例:
・前提:人間ならば、動物である
・誤った推論:人間でないならば、動物ではない
(※人間でない動物はたくさんいる)
後件肯定の誤謬#
❌️後件肯定の誤謬
次のような論証形式を 後件肯定 という。
もし \(P\) ならば、\(Q\) である。
\(Q\) である。
したがって、 \(P\) である。
後件肯定は形式的に誤った論証である。
例:
英雄、色を好む
彼は色を好む
だから彼は英雄である。
中名辞不周延の誤謬#
三段論法における誤謬
三段論法は2つの前提から結論を導く推論形式。
大前提:すべての人間は死ぬ。
小前提:ソクラテスは人間である。
結論:ゆえに、ソクラテスは死ぬ。
主語や述語にあたる 名辞(term) が必ず3つ登場する。
なかでも2つの前提に登場して結論には登場しない名辞を 中名辞(middle term) と呼ぶ。
また、名辞が現れる命題が、その名辞のすべての物事に関して主張しているとき、 周延されている(distributed) という。
例えば「すべての学生は裕福だ」という全称肯定命題では「学生」という名辞については周延されており、すべての裕福な人々についての主張はないので「裕福」は周延されていない。
正しい三段論法には2つのルールがある
中名辞は少なくとも一度は周延されなければならない
結論で周延される名辞は、前提の一つでも周延されなければならない
❌️中名辞不周延の誤謬(fallacy of undistributed middle term)
中名辞が一度も周延されないことによる誤謬。
例えば
大前提:(すべての)犬は動物である。
小前提:(すべての)猫は動物である。
結論:ゆえに、猫は犬である。
は2つの前提に登場する「動物」という中名辞が一度も周延されていない
端名辞不周延の誤謬#
❌️端名辞不周延の誤謬(fallacy of illicit distribution of an end term)
結論で周延されている名辞(端名辞)が前提で周延されない三段論法で結論を導くこと。
例
新築の家はとても高価だ
新築の家はエネルギー効率が高い
したがって、エネルギー効率の高い家は高価だ
端名辞:結論と前提にでている「エネルギー効率の高い家」
結論ではすべてのエネルギー効率の高い家について言及している(周延している)が、前提では周延していない
エドワード・デイマー (2023) 『誤謬論入門: 優れた議論の実践ガイド』における誤謬の定義。一般的な定義とは異なる
以下の項目のうち1つ以上を満たすなら誤謬である
議論の構造的欠陥
結論と関連のない前提
前提の許容性の基準を満たさない前提
結論を裏付けるのに総合的に不十分な前提
議論への予想される批判に対する効果的な反論の欠如
参考#
エドワード・デイマー (2023) 『誤謬論入門: 優れた議論の実践ガイド』