目標設定#
MBO#
Management by Objectives and Self-control (MBO) は P.F. ドラッカーが著作『The Priactice of Management』において提案した目標管理の哲学・考え方。
(ドラッカーは考え方として提案したものの、実際には制度として導入する企業も)
Management(組織で成果をあげる)#
ドラッカーはマネジメントを「組織をして成果をあげさせるための道具、機能、機関」と定義している。つまり、 組織で成果を上げるためのあらゆることがマネジメント
なお、ここで「成果」とは売上や利益ではなく、「顧客に届いた価値」のこと。
Objectives(共通の目標)#
客観的な目標のこと。個々人ではなく共通の目標
Self-control(自律的な貢献)#
ドラッカーは「(MBOによる)目標管理の利点は、自分の仕事を自分で管理すること」と述べた。
自分が果たすべき貢献を考え、自分で定め、自分で管理していくことがSelf-control
チームのマネージャーはチームの目標を設定し、
メンバーはメンバーとしての目標を立てる
❌よくある誤解#
経営者と人事が管理するための人事制度
上から降ってきたノルマを目標とする
上司が管理するために目標達成度を評価する
目標は必ず数字にする
⭕️ドラッカーのMBO#
マネジャーと働く人が持つべき哲学
自分の果たすべき貢献を明らかにして目標とする
自分の仕事を自分で測定して評価する
真に重要なことは数字にならない
OKR#
OKR(Objectives and Key Results) はMBOを実践するためのツールないし制度。
インテルがMBOの実践ツールiMBOとして開始し、グーグルへ広まっていった。
インテルからグーグルへ広めたジョン・ドーアが著書『Measure What Matters』でOKRと呼んだためOKRと呼ぶようになった。
Objectives(共通の目標)#
MBOのOと同じで、「何を達成すべきか」を具体的に示したもの。
KeyResults(主要な結果指標)#
MBOのObjectivesは測定できなくてもいいのだが、それでは達成されたかどうか判断できないため、MBOの運用は難しかった。
そこで、 「どのように達成するか」 を示すのがKey Results(KR)。KRは、
時間軸を明確にした
測定可能で
検証可能な
モニタリングの基準
ジョン・ドーアの例
Objective(目標)
インテル「8080」がモトローラ「6800」より高性能であることを証明する
Key Results(測定基準)
5つのベンチマークを完成する
デモを作成する
現場部隊のために営業トレーニング教材を作成する
営業トレーニング教材の有効性を確認するために顧客3社を訪問
OKR設定のポイント#
1. Focus(集中)#
1つの期における最も重要な目標を3~5個に絞り込む。
KRも1つのObjectiveにつき3~5個のKRに絞り込む。
目標のサイクルは短め(3ヶ月程度)が目安。
2. Alignment(協働)#
同じ目標に向かうために、すり合わせる。
CEO以下全員の目標を公開することで、自律的に協働を狙う。
実際には、例えばマネージャーや組織のObjectiveを達成するための各構成要素(Key Results)を各メンバーのObjectiveに紐づけてピラミッド状の目標構造にしたりする
3. Tracking(追跡)#
状況を追跡するために、簡単に目標の進捗や結果を更新できて、全員の状況を可視化できる環境を整える。
期中には軌道修正を行い、期末には来期に向けて振り返りを行う。
4. Stretch(挑戦)#
失敗を許容し、限界に挑戦させる。
70%くらいの確率で達成できそうなくらいにストレッチした目標 を設定させる。
「すべてのKey Resultsが達成されたOKRは失敗」 とされる。3~4割のKey Resultsが未達となるくらいストレッチすべき。
目標設定#
SMART#
明確でよい目標設定をするためのポイントとして有名なフレームワーク。
SMART
Specific(具体的) :「何を」「どのように」達成したいのかを具体的にする
Measurable(測定可能) :進捗や達成度を数値や客観的な指標で測れるようにする
Achievable(達成可能) :現実的で、努力すれば達成できるレベルの目標を設定する
Relevant(関連性) :最終的な目標や、自身や組織のビジョンと関連性があることを確認する
Time-bound(期限が明確) :目標達成の具体的な期限を設ける
例:「来年、管理職候補として、プロジェクトをリードできる人材になる」という目標をSMARTに設定すると、以下のように具体化できる:
具体的(Specific): プロジェクトマネジメントのスキルを習得し、社内プロジェクトを2件リードする。
測定可能(Measurable): プロジェクトマネジメントに関する資格を取得し、2件のプロジェクトを成功裏に完了させる。
達成可能(Achievable): プロジェクトマネジメントの基礎を学び、上司のサポートを得ながら2件のプロジェクトをリードする。
関連性(Relevant): 管理職への昇進と、組織のプロジェクト推進能力の向上に貢献する。
期限が明確(Time-bound): 1年以内。
定量化は絶対ではない
定量化にこだわりすぎるあまりバイアスのかかった方向へ目標を設定しないように注意。
目標は、事業上の定量化できる目標とともに、経営管理者のマネジメント、働く人たちの仕事ぶりと姿勢、社会的責任など 定量化できない目標を含むことが必要である 。これらの条件を満たさない目標は近視眼的であって、意味がないというべきである。
ドラッカー
KPI#
KPI(Key Performance Indicator)は言葉としては「鍵となる性能指標」という意味だが、明確な創始者や定義がなく、人によって定義が若干異なる概念。
BSC流KPI#
バランスト・スコアカード(BSC)はキャプランとノートンが1992年にHarvard Business Reviewに投稿した業績評価システム。
「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」という4つの視点についてそれぞれ数個、合計20~35個程度の指標を設定する。この指標のことをKPIと呼ぶ。
財務:売上高・売上総利益率・営業利益など
顧客:市場シェア・顧客内シェア・認知率など
業務プロセス:スループット・稼働率・品切れ率など
学習と成長:従業員数・労働分配率・社員定着率など
結果指標(売上高や営業利益など)もKPIと呼ばれる
リクルート流KPI#
BSC流のKPIは指標が多いため経営者には良いが現場メンバーに浸透しにくい。そこでリクルートではKPIの数を絞り、シンプルに整理した。
リクルート流のKPIでは、結果指標(売上高や営業利益など)はKGI(Key Goal Indicator)として区別される。
KPIはKGIに先行する指標、KGIを構成する指標が選ばれる(「新規取引先を5社開拓」など)
KGIを達成するためのプロセスであるCSF(Critical Success Factor、例えば「新規取引先の開拓」)に分解し、CSFの定量評価がKPI
KPI(現状) → CSF(プロセス) → KGI(ゴール)
KPIは道路の信号のようなもので、みんなが見て行動するもの。1つないし少数に絞ることが望ましいとされる
KGI(Key Goal Indicator)
目標のゴール地点(結果)を示す数字
(例:売上高、利益、売上成長率、業界シェア率)
CSF(Critical Success Factor)
ゴール(KGI)達成に必要なプロセス
(例:訪問数、プレゼン件数など)
(制約理論(ToC)でいう制約(サプライチェーンの弱い部分))
KPI(Key Performance Indicator)
KGIの達成度合いを測るためブレークダウンされた指標。KGIの先行指標。
また、CSFを表す数値目標
(例:KGIが「利益1億円」だとしたらKPIは売上高やコスト削減率)
KPIの設定方法#
(リクルート流の)KPIの設定方法は4ステップ
1. 目標(to be)と現状(as is)のギャップを確認#
OKRのObjectivesやKey Resultsを確認し、現状の延長上でそれを達成できるか考える。
ここにギャップがなく、現状の方法を続けたら達成できそうならKPIは不要
2. CSFの設定#
業務プロセスをモデル化し、CSF(最重要なプロセスたち)を絞り込む
3. KPIの目標設定#
運用性(整合性、安定性、単純性)があるKPIを設定する
整合性:ロジックが正しいか。CSFの変化でKGIが変化するか
安定性:KPIの数値が安定的に計測できるか
単純性:現場メンバー含め、みんなが理解できるか
KPI悪化時の対策を事前検討する
いつ(例:施策開始から1ヶ月後)
KPIがどれくらい悪化したら(例:想定より20%低い)
どうするのか(例:他組織から人員を10名投入する)
誰が決めるのか(例:組織のトップ)
を考えておく
4. 関係者と合意して運用#
KGIの分解
利益 = 売上 - 費用
売上 = 販売数量 × 平均単価
販売数量 = アプローチ量 × 歩留まり(CVR)
平均単価 = 正価 - 値引き
CSFの絞り込み
コントロールしにくいものは定数として除外するとよい。
定数の例
「価格」は事業によってはコントロールしにくいので除く(例:仲介事業なので自社に価格決定権がない、ローン前提の高額商品で金融機関が価格決定権を持つ、など)
「アプローチ量の増加」は営業担当者を増やしたり残業を増やす必要があり、現状の経営戦略では実行が難しいから除く、など
CSF設定の例
過去の施策やデータ分析から、例えば「利用者に企業を1社紹介するより、複数社紹介したほうがCVRが高い」とわかっていた → 「複数社の紹介」をCSFに設定する
戦略#
パレートの法則(20:80の法則)#
全体の20%の顧客が売上の80%を作る
→ 優秀な上位20%のメンバーを優先的にアサインする
ロングテール戦略#
数が多い下位80%の顧客のほうをどう伸ばすか考える
参考#
坪谷邦生. (2023). 図解 目標管理入門 マネジメントの原理原則を使いこなしたい人のための「理論と実践」100のツボ. ディスカヴァー・トゥエンティワン.
中尾隆一郎 (2018) 『最高の結果を出すKPIマネジメント』