リーダーシップ理論#
「マネージャー・リーダーはどういった行動をすべきか?」という問いは、学術的には「リーダーシップ理論」と呼ばれる分野において研究されてきた
特性理論(~1940年代)#
特性理論(Trait Theory)は、 「優れたリーダー(偉人)には共通する特性がある」 という考え方で、紀元前から1940年代まで主流であり、一度衰退したものの2000年代以降に再注目されている基礎的な考え方。
典型的に挙げられる特性#
外向性
誠実性(Conscientiousness)
知能(g)
自己効力感
支配性
1950年代に衰退#
1950年代に一度衰退した
相関はあるが因果が弱い
124の研究をレビューしたところ、各特性がリーダーシップに及ぼす影響は研究により異なっており、一貫した結果は見られなかった(Stogdill, 1948)
状況依存性を説明できない
同じ人が「あるチームでは有能、別のチームでは無能」という現象を説明できない
2000年代以降に再注目される#
一度衰退した特性理論であるが、2000年代において心理学・経営学のトップジャーナルにおいて20%程度掲載されている。
その理由は主に統計学の発展。
特性を測定する精度が向上した → リーダーシップへの相関・説明力が改善
メタアナリシスにより、複数の研究結果を統合しても安定して説明力があることが判明
1980年代にBig Fiveというパーソナリティ理論が登場し、リーダーシップとの関連性も明らかにされた(Judge, et al., 2002)
❌️特性理論の限界#
すべての特性を兼ね備えた人物は限定的
「すべての特性がいい人物を選別して採用する」という発想だと、会社に必要な分のリーダーが確保しにくい
後天的な能力開発の可能性
特性がいい人物を選別して採用していく観点だけでなく、「いかに育てるか」という観点も重要。
強みは弱みに転じうる
キャリアの半ばまで非常に成功しながらも、そのレールから脱線(derailment)した人物の共通項を探る「ディレイルメント研究」の領域がある。そこでMcCall & Lombardo(1983) は、良い特性とされる「聡明さ」が高い人物が、その聡明さゆえに他の人のアイデアや価値を低くみなす行動をとり、リーダーの座から転落した例を挙げている
行動理論(Behavioral Theory)(1950年代~)#
特性理論でうまく説明できなったため、リーダーの行動に着目した研究が進んだ。
多数の研究で着目されたのが「仕事」と「対人」の2軸である。
PM理論#
三隅二不二が提案したPM理論は、 リーダーシップは「P機能(Performance function:目標達成機能)」と「M機能(Maintenance function:集団維持機能)」の2つの能力要素で構成されている という理論。
PM理論では、P機能とM機能の2つの能力要素の強弱により、リーダーシップを以下の4つに分類している。
PM型(P・Mともに大きい) 目標を達成する力があると同時に、集団を維持・強化する力もある。理想的なリーダーシップのタイプ。
Pm型(Pが大きく、Mが小さい) 目標を達成することができるが、集団を維持・強化する力が弱い。
pM型(Pが小さく、Mが大きい) 集団を維持・強化する力はあるが、目標を達成する力が弱い。
pm型(P・Mともに小さい) 目標を達成する力も、集団を維持・強化する力も弱い。
行動理論の限界#
「仕事(P機能)」と「対人(M機能)」の2軸で説明する行動理論では、たしかに2軸の行動に秀でたリーダーが成果をあげやすい傾向が見られた一方で、そうしたリーダーがいかなる状況でもうまくいくことまでは確認されなかった。
例えば、業務遂行力と人格がともに優れた人材が、ある部署で大きな成果をあげたからといって別の部署で別の仕事をさせてみれば大きな成果が上がらなかったというケースがある。
こうした現象を鑑み、リーダーシップ研究はリーダーの周囲の「状況」も考慮するようになっていった。
状況適合理論(コンティンジェンシー理論)#
コンティンジェンシー理論(contingency model)#
Fiedler (1967, 1971)のcontingency model では、リーダーシップの効果に影響を与える状況要因は次の3つがあるとした
リーダーとメンバーの関係性
リーダーがメンバーから受け入れられ、良好な関係が築けているか
課題の構造
仕事の手順やメンバーの役割の明確さ
リーダーの権限の大きさ
人員配置、予算、人事考課などの権限をどの程度もっているか
これら3要因の程度がすべて大きいほど、リーダーにとって望ましい状況であるといえる。
Least Preferred Co-worker(LPC)尺度#
Contingency Model において リーダーの「志向性(orientation)」を測定するための心理尺度。
リーダーに対し、「一緒に仕事をするうえで最も苦手な同僚」を想定させ、「協力的である」「有能である」などの質問に回答させ、LPC尺度の得点を推定する。
「人間関係志向的であれば、苦手な相手でも好意的な評価をするだろう」という仮定をおき、LPC尺度の得点が高くなったリーダーは「人間関係志向的」、逆に低LPCのリーダーは「課題達成志向的」と判断する。
そして、8種類の状況下でのリーダーのLPC尺度得点とグループの業績の相関を調査した。その結果、
リーダーにとって「最も好ましい状況(メンバーとの関係性、課題の構造、権限の3要素が全部高い)」と「最も厳しい状況(3要素が全部低い)」においては、「課題達成志向的」リーダーが業績を上げやすい
どちらともいえない中間的な状況では「人間関係志向的」なリーダーが業績を上げやすい
ということがわかった。なお、Fiedlerはリーダーの志向性は固定的で変化しないものと考えており、「状況に応じて適切なリーダーを配置すべき」と主張した。
パス・ゴール理論(Path–Goal Theory)#
House(1971)による理論で、
リーダーの役割は、部下が「目標(Goal)」に到達するまでの経路(Path)を明確化・障害除去すること
と考える。
状況に合わせた4種類のリーダーシップスタイルを提案
スタイル |
機能 |
適用状況 |
|---|---|---|
Directive |
指示・構造化 |
タスク不明確 |
Supportive |
心理的支援 |
ストレス高 |
Participative |
意思決定参加 |
自律性要求 |
Achievement-Oriented |
高目標提示 |
熟達者 |
その際に考慮すべき状況要因を大別して2つ挙げた
メンバー要因(Subordinate Characteristics)
能力・経験
能力・経験が乏しいメンバーは指示やタスク構造の明確化
逆に熟練者には意思決定参加や高い目標の提示
Locus of Control(統制の所在)
「外的要因で成果が決まると信じる」と信じるメンバーは明確な指示を好む
「自分の努力で成果が決まる」と信じるメンバーへは意思決定は参加させ主体性を尊重
Environmental Factors(タスク環境)
Task Structure(課題構造):やるべきことが不明確なら、指示が経路を提供
Formal Authority System(権限体系):組織ルールが曖昧なら、指示
SL理論#
Situational Leadership (SL) 理論 (Hersey & Blanchard, 1977) は、 メンバーのタスクへの成熟度に応じて、リーダーが取るスタイルを変えるべき という理論。
交換理論(Exchange Theory)#
交換理論は、リーダーと部下の関係を相互利益の交換関係として捉える考え方。「私がこれをすれば、あなたはあれをしてくれる」という互恵性を基盤にする。
取引型リーダーシップ(Transactional Leadership)#
Burns(1978)が提唱した、最も典型的な交換理論。
例:「目標を達成したらボーナスを出す」「ルールを守らなければペナルティを与える」
特徴
「取引」と「交換」の構造 :報酬(給与・昇進・賞賛)を条件に、部下に目標達成やパフォーマンス向上を促す。
明確な指揮命令系統 :リーダーが明確な指示を与え、業務手順やルールに従わせる。
例外による管理(Management by Exception) :通常は放任的だが、ルール違反や目標未達成の場合にのみ介入する。
現状維持の重視 : 組織の秩序と既存の構造を維持し、着実に成果を上げる。
メリット
評価基準が明確で、公平性がある。
短期的な生産性向上や、目標達成に直結する。
役割分担が明確になる。
デメリット
金銭的な報酬(外発的動機)に依存し、内発的動機が育ちにくい。
創造的なアイデアや革新が生まれにくい。
リーダーへの依存度が高くなる。
LMX理論(Leader-Member Exchange Theory)#
リーダーは全員に同じ接し方をするのではなく、メンバーごとに異なる交換関係を築く点を考慮した理論。
個々のメンバーが、リーダーと関係性が良い 内集団(In-group) に属するか、関係性があまり良くない 外集団(Out-group) に属するかによって交換に差が生まれる
内集団(In-group):信頼・裁量・情報を多く得る高質な関係 → メンバーがもたらす業績も高い傾向
外集団(Out-group):形式的な契約関係にとどまる低質な関係 → メンバーがもたらす業績も低い傾向
交換理論の限界#
交換理論の前提は「リーダーからの命令に対して、メンバーが従い、その対価としてリーダーがメンバーに物理的・心理的報酬を与える」というもの。
交換理論に基づくリーダーシップは小規模のグループに対し、決められたことを決められたやり方で行う場合は有効に機能する。
しかし、組織の変革が必要な環境においては適さない。
変革型リーダーシップ理論#
ビジョナリーリーダーシップ(Visionary Leadership, Bennis & Nanus 1985)#
企業の変革を推進した経営者など90人に対して調査を行い、共通点を明らかにした
明確なビジョンで人々の注意を引きつける
ビジョンをわかりやすく伝えコミュニケーションする
一貫性ある行動・ポジショニングで信頼を築く
自分の強み・弱みを知り、それを活かす
カリスマ型リーダーシップ(Charismatic Leadership)#
Conger & Kanungo(1987)は、カリスマはリーダーの特性・客観的な資質ではなく、フォロワーが「この人はカリスマだ」と知覚することで成立すると考えた。
1. ビジョン(Vision and Articulation)
現状とは大きく異なる理想的な将来像を描き、それを明確に言語化・伝達する能力。フォロワーが「自分たちの夢・希望と一致する」と感じるビジョンであることが重要。
2. 環境への感受性(Environmental Sensitivity)
外部環境の変化・制約・資源を的確に読み取る能力。現実的な文脈の中でビジョンを実現するための機会と障害を見極める。
3. フォロワーのニーズへの感受性(Sensitivity to Member Needs)
フォロワー一人ひとりの能力・感情・ニーズを理解し、それに応じて働きかける能力。フォロワーへの共感と配慮。
4. 現状への批判的姿勢(Does Not Accept Status Quo)
既存の秩序・慣行に対して批判的に評価し、変化の必要性を訴える。現状維持ではなく変革を志向する。
5. 非慣習的行動(Unconventional Behavior)
既存の規範や期待を超えた、革新的・非慣習的な手段や行動をとる。これがフォロワーに「この人は特別だ」という印象を与える。
6. 個人的リスクの引き受け(Personal Risk)
ビジョン実現のために自己犠牲・個人的コスト(地位・財産・安全)を厭わない姿勢。この自己犠牲の可視化がフォロワーの信頼と献身を引き出す。
Full Range Leadership Model#
Bassはリーダーシップスタイルを連続体として捉えた
放任型(Laissez-Faire)
↓ 最も受動的・非効果的
取引型(Transactional)
↓ 条件付き報酬 / 例外管理
変革型(Transformational)
↓ 最も能動的・効果的
変革型と取引型は対立ではなく補完関係にあり、状況に応じて使い分けることが重要。
変革型リーダーシップ#
変革の8段階モデル(1996)#
コッターが『Leading Change』で提唱した、組織変革を成功させるための8つのステップ
ステップ1 危機感の醸成
↓
ステップ2 同志を募り、変革推進チームを結成
↓
ステップ3 ビジョンと戦略の策定
↓
ステップ4 ビジョンの浸透
↓
ステップ5 自発的な行動の促進(障害の除去・環境整備)
↓
ステップ6 短期的成果の創出
↓
ステップ7 成果を活かしてさらなる変革を推進
↓
ステップ8 変革を企業文化に定着させる
ステップ1:危機感の醸成(Create a Sense of Urgency)
変革の必要性を組織全体が認識していないと何も始まらない。コッターは「組織の75%以上が変革の必要性を感じていなければ変革は失敗する」と述べている。競合の動向・市場の変化・業績データを活用して危機感を高める。
ステップ2:変革推進チームの結成(Build a Guiding Coalition)
変革はリーダー一人では実現できない。権限・専門知識・信頼性・リーダーシップを持つ人材を集めた強力な連合チームを作る。このチームがドライビングフォースとなる。
ステップ3:ビジョンと戦略の策定(Form a Strategic Vision)
変革の方向性を示す明確・魅力的・実現可能なビジョンを策定する。ビジョンなき変革は混乱した実験の連続になる。コッターは「5分で説明できないビジョンは不十分だ」と述べている。
ステップ4:ビジョンの周知徹底(Enlist a Volunteer Army)
策定したビジョンをあらゆる手段・チャネルで繰り返し伝達する。重要なのは言葉だけでなくリーダー自身の行動がビジョンと一致していること。
ステップ5:自発的な行動の促進(Enable Action by Removing Barriers)
ビジョンの実現を妨げる障害(古い構造・非協力的な上司・制度的障壁)を取り除き、人々が自発的に動ける環境を作る。エンパワーメントが鍵。
ステップ6:短期的成果の創出(Generate Short-term Wins)
長期変革の途中で可視化された早期成果を意図的に作り出す。成果がないと変革への懐疑論や疲労感が広がり、抵抗勢力に反撃の口実を与える。
ステップ7:成果を活かしてさらなる変革を推進(Sustain Acceleration)
初期の成功に安住せず、その勢いを活かしてより深い変革に踏み込む。早期の勝利宣言が変革の最大の失敗原因の一つ。
ステップ8:変革を企業文化に定着させる(Institute Change)
変革が組織の新しい規範・行動様式として定着するまで定着を続ける。「なぜ新しい行動が成功をもたらすか」を明示し、リーダーシップの継承にも反映させる。
変革が失敗する8つの理由#
8段階モデルは裏返すと、コッターが観察した変革が失敗するパターンでもある。
危機感が不十分なまま始める
強力な推進連合を作らない
ビジョンを過小評価する
ビジョンの伝達が10分の1以下
障害を取り除かない
短期的成果を計画的に作らない
早々に勝利宣言をする
変革を文化に定着させない
デュアル・オペレーティング・システム(2014)#
コッターは著書『Accelerate』で、VUCA時代に対応するための新しい組織モデルを提唱している。
従来の階層型組織(ヒエラルキー)は安定・効率には優れるが、変化への適応が遅い。そこで 階層型組織を維持しながら、並行してネットワーク型の変革推進システムを走らせる「二重構造」を提唱 した。
階層型システム(Hierarchy)
→ 日常業務・効率・安定性
ネットワーク型システム(Network)
→ 変革・イノベーション・適応
↑ この両者を同時に走らせる
このモデルでは、変革は特定の部署やプロジェクトチームだけでなく、 自発的な有志ネットワーク によって推進される。
評価と批判#
変革型リーダーシップの強みは
実践的でわかりやすく多くの企業で活用されていること
変革失敗のパターンを体系的に整理したこと
段階の順序性と相互依存性を明示したこと
他方で弱み・批判される点としては
8段階が線形・順序的すぎる(実際の変革はより複雑・非線形)
変革をトップダウンで捉えすぎており、ボトムアップの変革やミドルの役割が軽視されている
測定・実証研究が少なく、コンサルタント的なフレームワークに留まる
マネジメント vs. リーダーシップ
変革型リーダーシップの提案者のコッター(John P. Kotter)はHarvard Business Schoolの教授で、「マネジメント(Management)」と「リーダーシップ(Leadership)」を明確に区別した。多くの組織論がこの両者を混同していると批判し、変革を実現するにはリーダーシップが不可欠だと主張した。
マネジメント |
リーダーシップ |
|
|---|---|---|
目的 |
複雑さへの対処 |
変革への対処 |
プロセス |
計画・予算策定 |
方向性の設定(ビジョン) |
組織化 |
組織化・人員配置 |
人心の統合(Aligning People) |
統制 |
管理・問題解決 |
動機づけ・鼓舞 |
結果 |
秩序・予測可能性 |
変革・変化 |
コッターは「現代の多くの組織はマネジメント過剰・リーダーシップ不足だ」と繰り返し指摘した。
社会的交換理論(Social Exchange Theory)#
リーダーの命令や提案に対して、メンバーが従い貢献するという関係がある場合、リーダーはメンバーの貢献に対してなんらかの報酬を与えることが一般的。
この報酬は必ずしも金銭的・物理的なものだけではなく、賞賛や激励など心理的なものも含まれる。
このようにリーダーとメンバーの間で特定の利益を獲得するために互いの資源をやり取りし合うことを、 社会的交換 と呼ぶ。